2009-01-01から1年間の記事一覧

獅子唐が

獅子唐が真つ赤に熟れる夏果の朝のあなたはいらいら化粧ふ新井蜜の短歌日記

初夏の

初夏の野辺の光を運びくる風に我が身を委ね立ちゐる新井蜜の短歌日記

山積みの

山積みの下着を漁るきみに逢ふ船場センタービルを歩けば新井蜜の短歌日記

しゃあしゃあと

しゃあしゃあと鳴く熊蝉に足を蹴る生まれる前のやすらぎのなか新井蜜の短歌日記

少年の

少年の日々と一緒に捨ててきた熟れてゆくあの桃やスイカを新井蜜の短歌日記

蒸す宵に

蒸す宵に冷夏の予報 土地というよつてたつもの売つてしまへり新井蜜の短歌日記

離反する

離反する心を残し旅に出る 餌付けするのはやめてください新井蜜の短歌日記

またどこへ

またどこへ行つたのだろう妻と子はかなかなのまだ鳴かぬ夏の夕暮れ新井蜜の短歌日記

お風呂場の

お風呂場の網戸の向かうに張りついて俺の裸を視てゐるヤモリ新井蜜の短歌日記

さあああと

さあああと近づいてきてさあああと遠ざかってく夏の自動車新井蜜の短歌日記

千匹の

千匹の蚊が鳴くようなエアコンの夏の終りの夕暮れの音新井蜜の短歌日記

みづのない

みづのない川底あるく人間の頭のやうな石がごろごろ新井蜜の短歌日記

暗闇を

暗闇をえらんで歩く目の眩む白い光に追いかけられて新井蜜の短歌日記

受付の

受付の女性はいつもうつむいて微笑んでをり俺に気付かぬ新井蜜の短歌日記

お茶場から

お茶場からふつと出てきて挨拶しちいさい背中見せて立ち去る新井蜜の短歌日記

地下道の

地下道の左側から右側へ流れるみずを飛び越えられぬ新井蜜の短歌日記

夕立が

夕立が激しく降るとメール届き帰つて見れば既に上がりぬ新井蜜の短歌日記

一斉に

一斉に振り向く真夜のコンビニの立ち読み客は皆おなじ顔新井蜜の短歌日記

うす青の

うす青の朝顔ひらく腹痛を訴へられたあの朝のこと新井蜜の短歌日記

丸い月

丸い月半分に切り分けあつた 今夜はきみの月が照つてる新井蜜の短歌日記

弟の

弟のクラスメートと手をつなぎ月のない坂駆け降り笑ふ新井蜜の短歌日記

裏背戸の

裏背戸の三角畑の蕎麦当たれ 藁鉄砲打つ十三夜の月新井蜜の短歌日記

縁側で

縁側で産湯をつかひとうさんの笑顔のむかうに満月を見き新井蜜の短歌日記

頭だけ

頭だけ包帯巻いて西空に昼の透明人間浮かぶ新井蜜の短歌日記

たどり着く

たどり着くところなどない少しづつ失つていくさまよひながら新井蜜の短歌日記

寝不足の

寝不足の頭に響く裏山の鳩の鳴く声。白桃を剥く新井蜜の短歌日記

この歳に

この歳になつてわかつてきたやうだきみの言葉の癖らしきもの新井蜜の短歌日記

空が暗く

空が暗くなつてくるからさあ速く走れよ電車稲妻光る新井蜜の短歌日記

街中の

街中の人も車も早送りされてる暑い日暮れを歩く新井蜜の短歌日記

目の前を

目の前を黄のTシャツが足早に横切り左前方に消ゆ新井蜜の短歌日記