校庭の日照りの夏の蛇口から常識だけがこぼれ落ちくる新井蜜の短歌日記

網棚に置き忘れられ食べ掛けの幕の内弁当は干からぶ新井蜜の短歌日記

春雨にぬれて闇夜をおちていくわさび色したあなたの下着新井蜜の短歌日記

明け方にひろいあつめたほしくずを給食係が僕らにくばる新井蜜の短歌日記

物置の穴から響くクリックとトムチットトットの高笑い声新井蜜の短歌日記

呼び出され駆け出していく線路越え君だったんだ僕ではなくて新井蜜の短歌日記

会いたくて天気雨ふる畦道のすみれの花をつまんでたべる新井蜜の短歌日記

海べりの小さな家の寝室で広島弁の睦言をいう新井蜜の短歌日記

プライドはもう棄てました 狙い打つ→矢に刺されても死なない自信新井蜜の短歌日記

いさぎよく白状しますきみにきた斎藤さんの手紙みました新井蜜の短歌日記

春風に溶けだしていく野や森の意図したことも意図せぬことも新井蜜の短歌日記

少しだけ丈の短い棺に寝るロンドン塔で首をはねられ新井蜜の短歌日記

手をふって足をふりあげ僕たちは秩序を保ち草刈りに行く新井蜜の短歌日記

アルバムにきれいに整理して残す草冠の漢字をあつめ新井蜜の短歌日記

蛾の群れが炎のように羽ばたいて世界地図から飛び立っていく新井蜜の短歌日記

うしろから脚立にのぼり見下ろすとてっぺんのとこ白くなってる新井蜜の短歌日記

黒白のまだら模様の機嫌です牛より狭い背中だけれど新井蜜の短歌日記

押し入れの古着を探す休日のくしゃくしゃの髪にすむひばりの子新井蜜の短歌日記

橋を越え探しに行った冬のあさ透明なもの食べたくなって新井蜜の短歌日記

戸棚には漬物ばかり母さんは既にいないとわかっていたが新井蜜の短歌日記

「怒るより笑っちゃうね」と聞いた日の朝コンビニで出会った僕ら新井蜜の短歌日記

腰痛のジュリエットから招かれる氷が張った遊びに来てと新井蜜の短歌日記