ボルガ河のような大河に身を投げて流されてゆく浮身しながら新井蜜の短歌日記

憂鬱になりたいのではないけれど憂鬱になるひとりの朝は新井蜜の短歌日記

音源を探して歩く浮沼を田んぼのなかを田螺のように新井蜜の短歌日記

早とちりしてばっかりのきみだから雨傘をさすつばめを見たら新井蜜の短歌日記

白壁に我が影うつす午後二時のあの日とおなじ太陽の位置新井蜜の短歌日記

花みずき白く咲く朝たしかめる恥骨の固さ鼻梁を当てて新井蜜の短歌日記

アンコール聴かずに帰るパトカーが近づいてきて去っていく道新井蜜の短歌日記

剪定の屑に埋まりし我が家かなゴミ回収の基準厳しく新井蜜の短歌日記

住所録めくってみたがアの欄もミの欄もまた空白である新井蜜の短歌日記

金魚鉢に金魚のいない理髪店おまけにくれた十円硬貨新井蜜の短歌日記

干してある白いジーンズ肩組んで歩いたときの君が穿いてた新井蜜の短歌日記

満員の電車に乗れば春の朝マスクで隠す昨夜(よべ)の爪痕新井蜜の短歌日記

瀬戸内に生まれたきみは田螺など食ったことない専ら浅蜊新井蜜の短歌日記

連休の谷間の朝に痩身の水兵さんと腕組み歩く新井蜜の短歌日記

卒業の年に流行った歌を買うCDショップで火をつけられて新井蜜の短歌日記

消え失せたはずの思いがあふれでる部屋隅の屑かごのふちから新井蜜の短歌日記

冷凍の秋刀魚を選ぶ春の日のお昼に食べる一品として新井蜜の短歌日記