空襲があるかも知れぬ晴れた日に天ぷら鍋を頭にかぶる新井蜜の短歌日記

夏までは黙っていよう水色のシャツがとっても似合っているから新井蜜の短歌日記

ハロー朝ハロー冬空ハロー雪、職安に行く今日の計画新井蜜の短歌日記

石段をかけ上がり来て我に説く青きくちばし閉じることなく新井蜜の短歌日記

年齢の数だけの豆ついばんで貧しいことを忘れるカラス新井蜜の短歌日記

教会の前に落ちてた濡れている赤いノートの読めない絵文字新井蜜の短歌日記

球根を買って並べたヒヤシンス格差だなんて 紅い花房新井蜜の短歌日記

戦争を知らない僕ら火にくべる解法のない試験問題新井蜜の短歌日記

立春を過ぎた光に導かれUターンせよ生まれた時へ新井蜜の短歌日記

木瓜の花くれない色の鉢を買う 型にはまった問答ばかり新井蜜の短歌日記

まだ寒い水辺に並ぶもの達は煮ても食えない山からのもの新井蜜の短歌日記

月曜のビルの谷間を降ってくるカタカナだけで書かれた手紙新井蜜の短歌日記

蘇りもう寝られないジュリエット達と遊んだ運河の記憶新井蜜の短歌日記

寝室の鏡の裏をのぞいたら嫉妬している俺が見ていた新井蜜の短歌日記

つけてくる者のいぬこと確かめて凍った街の花屋を探す新井蜜の短歌日記

何も見ていないかのよう地下街をふわふわふわと素足のままで新井蜜の短歌日記

マネキンを抱えて逃げる破綻した服飾雑貨扱う店の新井蜜の短歌日記

終末の知らせだろうか鳴り続くランチの時間過ぎたあとにも新井蜜の短歌日記

少しだけ震える声がかわいくて「水玉模様」の玉のところで新井蜜の短歌日記

パンくずを目印にした森のみち調べたあとでパン買いに行く新井蜜の短歌日記

ゆっくりと涙をぬぐう密林のひだまりに棲む蜥蜴のように新井蜜の短歌日記

「わからないことばかりなの私では助けられない理由教えて」新井蜜の短歌日記

波の数かぞえて冬の砂浜の一日が過ぐ 卵を探す新井蜜の短歌日記

夕暮れの雑踏のなか探しあて逢った老女は笑顔を見せぬ新井蜜の短歌日記

目の眩む光のなかで背中からじわりと迫りのしかかられる新井蜜の短歌日記