みづ飲んで苦い思ひを流し去ることができぬか朝みづを買ふ新井蜜の短歌日記
梅雨なのか梅雨でないのか降つてゐるをさない者にさよならをいふ新井蜜の短歌日記
うす青の朝顔ひらく腹痛を訴へられたあの朝のこと新井蜜の短歌日記
好敵手だつたお前をもう一度月夜に探してみるかくれんばう新井蜜の短歌日記
繰り返し波の戻つてゆくところ足下の砂を引きさらひつつ新井蜜の短歌日記
雲のわく南の島に帰れない電気クラゲに刺された朝も新井蜜の短歌日記
断崖をのぞきこんでる梅雨の朝すつぱいものが込み上げてきて新井蜜の短歌日記
寝過ごせばマイナスだから飛び上がる腹の大きな春日野の鹿新井蜜の短歌日記
あらかじめ書かれてあった卓上の今日の日記をなぞる一日新井蜜の短歌日記
彼方から夕暮れの野を越えてきて見下ろしている目のようなもの新井蜜の短歌日記
鼻すじの通った人は嫌いだと負け惜しみ言いお前は泣いた新井蜜の短歌日記
夕焼けになるであろうか灼熱の熔岩のように燃える夕焼け新井蜜の短歌日記
走りつつ路面を嗅いで冬の犬が俺の妹探しに行った新井蜜の短歌日記
町長の長谷川さんは古物商長谷川商事の社長でもある新井蜜の短歌日記
癇癪を起こすだろうか閾値を探るテストをそっとしてみる新井蜜の短歌日記
編み上げの茶色の靴を探してるあなたに会った風吹く五月新井蜜の短歌日記
この次の土曜は歌会で出掛けると気分の晴れ間に急いで告げる新井蜜の短歌日記
音符ではなくってあれは鹿たちが寝そべってるの若草山に新井蜜の短歌日記
消去せよ世界開示のパスワード用事済んだら竈にくべて新井蜜の短歌日記
引き上げて!殺意が光る浜辺まで安堵の海にひたるわたしを新井蜜の短歌日記
男らがベンチで空を仰ぐなか女は犬にボールを投げる新井蜜の短歌日記
目覚めればわたしは既に知っている世界が生まれ変わったことを新井蜜の短歌日記
腕力もお金もなくてクリスマスイヴに負けないための方法新井蜜の短歌日記
ボルガ河のような大河に身を投げて流されてゆく浮身しながら新井蜜の短歌日記
憂鬱になりたいのではないけれど憂鬱になるひとりの朝は新井蜜の短歌日記
音源を探して歩く浮沼を田んぼのなかを田螺のように新井蜜の短歌日記
早とちりしてばっかりのきみだから雨傘をさすつばめを見たら新井蜜の短歌日記
白壁に我が影うつす午後二時のあの日とおなじ太陽の位置新井蜜の短歌日記
花みずき白く咲く朝たしかめる恥骨の固さ鼻梁を当てて新井蜜の短歌日記
アンコール聴かずに帰るパトカーが近づいてきて去っていく道新井蜜の短歌日記